小学六年生の林成美はちょっと背の高い気弱な女の子。
パパがメキシコに単身赴任しているため、今は、娘と同じように「ひょろひょろとした」ママと生活している。
これといった友達もいない成美だが、ほんの少し前までは、うさぎのように目のくるりとした柏木レオナという女の子といつもいっしょだった。
あんなできごとがなければ、今でも、何も変わらなかったはずの二人・・・。
物語は、友達のことで心に傷を負った成美が、まったくの成り行きで剣道をやらされるところからはじまる。
彼女の入会した「瑞法寺剣道クラブ」で稽古をするのは、成美を入れても、たった四人の子どもたちだけ。
となりクラスの大柄な男の子で、何かと成美に気を使ってくれる石田太一。
成美の前ではいじわるだけど、剣道に対しては、いつも必死な塚原浩次郎。
そして、とにかく剣道にまっすぐな北島監督と、その娘でほとんど無表情、それでいて圧倒的な強さを持つ美少女の茜。
成美は、彼らに混じって、おっかなびっくり慣れない稽古にはげむのだが。
剣道を題材にした作品でありながら、けっして、スポ根もののような安易な展開になっていないところが、物語を現実感のあるものにしている。
さらに、成美のパパやママをはじめ、すべてのキャラクターが脇役にならずに、それぞれが読者に何かを語りかけてくる筆運びは、見事というほかない。
一度は剣道をやめようとした成美が、茜の意外な一面を見て稽古に戻ってくる様も、好感が持てる。
物語の終盤、錬成大会に出場するものの、いっこうに勝てない成美。
ところが、続く試合では、落ちこむ彼女の迷いを断ち切る思いもよらない戦いが待っていた!
「まっしょうめん!」
まさに、題名がすべてを物語った、読後感さわやかな「サムライガール」ストーリー。
「正しいか、正しくないか。」
「美しいか、美しくないか。」
「まっすぐか、まっすぐじゃないか。」
北島監督の言葉の意味と、自分が正面から向きあわなければならないものが何であるかを見つけ出す成美の姿が、感動のラストを飾ります。
卓越した文章力と計算された構成が光る、信州児童文学会会員である著者の、鮮烈なデビュー作。
スタジオジブリ出身のアニメーション監督、新井陽次郎氏の描く挿絵も、作品にさらなる魅力を添えています。