大好評だった前作から続く青春剣道小説の第二弾。
小学六年生の林成美は、三人の仲間(北島茜、石田太一、塚原浩次郎)とともに、今も瑞法寺剣道クラブに通っている。
剣道の腕前は相変わらずだが、休日は、チームメイトの茜と町に出かけたりと、それなりに楽しい毎日を過ごしていた。
ある日、太一と小手の稽古をしていた成美は、あやまって太一の右ひじを竹刀で突いて打撲させてしまう。
翌日に行なわれる市民スポーツ祭に参加して、浩次郎と三位以内に入ることを誓いあっていた太一だったが、このケガがもとで試合の出場をあきらめることに。
自分がケガをすることはあっても、まさか、人にケガを負わせることになるとは思ってもみなかった成美は、この事件をきっかけに、しだいに剣道をするのがこわくなってしまう。
さらに追い討ちをかけるように、クラスメイトたちから太一との仲をうわさされ、瑞法寺剣道クラブに行きにくくなっしまった成美は、やっぱり、剣道なんて自分には向かないのではないかと悩みはじめる。
そんな時、「さくら堂」という防具屋で出会った老人、五条先生の稽古の見学に出かけた成美は、そこで、自分よりはるかに大柄な若い生徒たちを、ほとんど体を動かすことなく、あっさりとひねりつづける五条先生の剣道を目の当たりにして・・・。
前作同様、けっして剣道が強いとは言えない、ひっこみじあんな少女の心の内を、周囲の人々とのさりげない交流を通しながら、丁寧に描き出している。
ぞうきんをしぼり、床そうじすることを北島監督から命じられた成美が、その意味を知り、小手がとれるようになるまでの軌跡も、現実味があって納得させられるものがある。
同時に、仕事上の人間関係で悩む成美のパパや、クラスメイトたちから小間使い扱いされている太一、その姿を見つめる妹の美咲の姿からは、現代社会を生きる難しさや辛さが切実に伝わってくる。
おへその下に力を入れて声を出し、中心をとりつづける。
相手ののどもとに竹刀をむけ、視線をそらさない。視線にだまされてもいけない。
耳をすまし、体中が耳になったような気がして・・・。
打突の機会。
小手という、すぐ目の前にあるのに、はてしなく遠い一手を打てるようになるまでの、主人公の心と体の成長の物語に、著者の人生に対する真摯な姿勢が見られる秀作である。
小学校中学年以上向き。