小学五年生の寺岡美舟の将来の夢は、「まっとうに生きる」こと。
およそ小学生らしくない夢だが、彼女には、そう考えてしまうだけの理由があった。
家を不在にしている画家志望の父親に対して、複雑な感情を持つ美舟。
彼女の家では、頼りにならない父親のかわりに母親が中心となってべんり屋を営んでいる。
依頼される内容は様々だが、なんとか、依頼主の要望にこたえようとする美舟たち。
物語は、そんな美舟たちのひと夏をユーモアを交えて丹念に描いている。
個性的な人物が次々と登場し騒動をまきおこすが、けっして、現実感を見失わないところが、中山文学のすばらしいところ。
「夢がかなって、自分の思い通りになるっていう幸せもあるけど、思いもよらない形でやってくる幸せも、あるものなのよ。」
お母さんが美舟に言った言葉が、読み終わった後にしみじみと心に伝わってきて、深い感動で読者を包みこんでくれます。
おもしろくて、おかしくて、それなのに、何度も泣きたくなってしまう中山文学の新しい形です。