ペンギンは空を見上げる

著者:八重野統摩(東京創元社)

クラスで孤立している小学五年生の佐倉ハルには、ひそかな夢がある。

将来、NASAやJAXSAに入って、ロケットのエンジニアになるという夢だ。

そのための勉強もしている。

英語だって、それなりに話すことができる。

でも、それは、誰にもわかってもらえない自分だけの秘密。

そんなハルの前に、ある日、一人の少女が現れる。

不遜な態度でハルのクラスに転校してきた少女は、なんと、金髪の外国人だった。

名前は、鳴澤イリス。

片言の日本語しか話せないイリスは、まるで周囲を跳ね除けるかのような態度で、まったくクラスになじもうとしない。

もちろん、ハルに対してもだ。

当然のようにクラスメイト達からいじめられることになったイリスだったが、大切にしていたウサギのぬいぐるみを誰かに隠されてしまった事件をきっかけに、ハルに急接近してくることになる。

いやいやながらもイリスと行動を共にするようになるハル。

彼には、ロケットエンジニアになるために取り組んでいる課題があった。

それは、風船ロケットを宇宙まで飛ばし、ガガーリンの言った「地球は青かった」という言葉をその目で確かめること。

そして、もうひとつ。

宇宙には、神様なんて存在しないんだということを証明することだった・・・。

頑なに心を閉ざした少年と少女が、惹かれたり反発したりしながら、宇宙を目指す青春ストーリー。

風船ロケットに関する詳細な記述が、子供によるロケット製作が、決して非現実的な試みでないことをわかりやすく説明してくれる。

互いに秘密を抱えた二人の心の葛藤が、ミステリー仕立ての展開を織り交ぜながら、丁寧に語られていくところも、著者のたぐいまれな実力を感じさせる。

どこまで読み進めても、いっこうにペンギンが出てこないが、その意味が最後になって明かされ、同時に納得と深い感動となって物語を締めくくる。