むかし、赤鬼くんと青鬼くんと黄鬼くんがいました。いいえ、今もいます。
赤鬼くんと青鬼くんは、有名ですね。だって、たくさんの昔話に登場するのは、いつだって赤鬼くんと青鬼くんです。桃太郎にやっつけられたりする役が多いけど、近ごろは、やられ役にもファンがいる時代です。ですから、お休みの日なんかは、二人ともおしゃれをして町まで出かけ、女の子にキャーキャー言われて得意になることもできます。
問題なのは、黄鬼くんです。知りませんでしたか?本当は黄鬼くんも、赤鬼くんや青鬼くんといっしょに物語に出演しているのです。
でも、黄色は目立たないから、絵本でもテレビでも、いつも画面のすみっこ。いるのかいないのか、ほとんどわかりません。
(ああ、なんでぼくは黄色なんだろう?赤鬼くんや青鬼くんみたいな色なら、もっと強くて悪そうに見えるんだけど)
ある日のことです。黄鬼くんが散歩に出かけると、道端に黄色い菜の花畑がありました。
「まあ、きれい。あなたが咲かせたの?」
うしろから声をかけられて黄鬼くんがふりかえると、若い娘さんたちが三人、目をクリクリさせて黄鬼くんを見ています。
「ちがうよ、ぼくは・・・」
黄鬼くんがどぎまぎしながら否定する前に、娘さんたちは「かーわいいっ」と言って笑いました。黄鬼くんは、はずかしくなりましたが、同時にうれしくもなりました。
「ぼくの色、とってもかわいいんだね!」
それからというもの、黄鬼くんは、菜の花を育てるようになりました。はじめは、自分の家の庭に。それから、住んでいる町のあちこちに。さらには、日本中のいたるところに。
(赤鬼くんや青鬼くんみたいにはなれないけど、ぼくにも、こんなことができるんだ)
今年も、もうじき春がやってきます。あなたの町に菜の花が咲いたら、それは、黄鬼くんのせいかもしれませんね。