父と母が離婚をし、その上、いっしょに暮らしていた母親を病気で亡くした主人公のトーコ。
中学二年生の彼女は、母方の祖父母の家に引き取られ平凡な中学校生活を送っている。
けっして、何もかもわかりあえる理想的な母娘ではなかったが、それでも、トーコの心はすべての家庭の幸福を失ってしまった苦しみにあえいでいる。
母親は、生前、トーコに見せたい景色があると語っていた。
それがどんな場所で、そこにどんな秘密が隠されているのか、母親がいなくなった今となっては、だれにもわからなかったが、ふとしたきっかけから、トーコは、謎を解く鍵を発見する。
トーコは、自分が何のとりえもないつまらない人間だと思っている。
小説家だった母親や小児科医の叔母とちがって、自分は何をやってもまん中くらいだと考えている。
そして、父と母の離婚によって、自分がこの世に生まれてきてはいけなかった失敗の産物なのだと信じている。
そんなトーコに、母親はどんな景色を見せたかったのだろう?
すでに再婚をし、離れ離れになっている父親からの電話。
それをめぐって言い争いになる祖父母の姿に、トーコの苦しみは募っていく。
友人との関係に悩んだり、気になる男子に切ない思いを抱いたり、14歳の少女の複雑な内面が、文学性香る豊かな筆致でみずみずしく描かれる。
「その景色をさがして」
作品の題名は、トーコの心のさけびそのものである。
やがて、その景色のある場所をつきとめ初めてのひとり旅に出るトーコ。
はたして、彼女の行く先に待っているものは何なのか?
それは、彼女に何を見せ何を語ってくれるのだろうか?
圧倒的な表現力によって描き出された、幻想的なラストに、さわやかな読後感が残る、魂の再生と希望の物語。