小学五年生の圭は、両親の仕事の都合から、夏休みの間、わらび村への山村留学に無理やり行かされてしまう。
山村留学の募集人数は10人だったはずなのに、集まったのは、圭を含めてたったの3人だけ。
太っちょを気にしている友一と、何もしゃべらず、うつむいてばかりいる有里。
しかも、行った先は都会とは何もかもがちがう、さみしい田舎で、圭は、たちまちホームシックになってしまう。
心細くて、もう少しで泣き出しそうな圭だったが、お世話になる春見家の子供、同級生の晃と妹の奈々は、圭がやってくるのを、とても楽しみにしていたという。
そんな、村の人々の支えもあって、徐々に新しい生活になじんでいく圭と友一。
けれども、有里だけは、いつまでたっても、一言も口をきこうとしない。
彼女には、人前で話ができなくなるような、悲しい理由があった・・・。
はじめは、山村留学をいやがっていた子供たちが、友達や村の人々とのふれあいを通して、人の心の痛みや傷を理解し、自分がどう行動していくべきかを学んでいきます。
認知症を患っている春見家の祖祖母とのふれあいが、心を閉ざしていた有里に少しずつ変化をもたらせますが、そのきっかけを作った圭も、弱かった自分に打ち勝つ力を有里から与えられます。
楽しいことばかりではない山村留学が、子供たちをたくましく変えていく様子を丹念に描いた、著者渾身のデビュー作。
第13回小川未明文学賞受賞作品「夏への帰り道」を改題。