著者:八束澄子 絵:gemi(ポプラ社)
中学二年生の溝口遊の家族は、単身赴任の父親と働きに出ている母親、弟で小学一年生のダイの四人。
母親は、典型的な体育会系女子だったが、勤め先で正社員に昇格したころから少しずつ生活の歯車がくるいはじめ、夫婦喧嘩をきっかけにうつ病になってしまった。
食事も事欠くありさまの日々を、ダイと寄り添うようにして苦しく生きる遊。
そんな遊の前に同学年でサッカー部のエース、キンちゃんこと金城哲が現れる。
たちまち、恋に落ちてしまった遊だったが、奥手の性格が災いしてなかなかキンちゃんに近づくことができない。
そこへ、クラスメイトの金子満里や転校生の五十嵐あさみも加わり、三人は、前例のないサッカー部のマネージャーに志願するのだが・・・。
物語の序盤は、現代の中学生に降りかかる過酷な現実が克明に描かれていて読者の胸をしめつけるが、後半へ進むにしたがって、十四歳の少女の危うげだが生きる力に満ちた一日一日が、少しずつ困難を払いのけていくことになる。
たいした理由もないのに、怒ったり、泣いたり、不安になったり、笑ったり、そして、恋に切なくなったり、思春期の少女のゆれ動く心を見事に描ききった作風は、読者を物語の世界へ引き込むのに十分な力を持っている。
物語の終盤、冬の空に伸びたひこうき雲を見上げる遊たち。
ひこうき雲が出た翌日は雨になると、あさみ。
低気圧が近づいているから持病のぜんそくが出ると、満里。
そういえば母親が調子を崩すのも、ひこうき雲が出た翌日あたりが多いかもと思う遊。
「それでもあたしは、ひこうき雲が好きだー」
空に向かって宣言する遊の姿に、まだまだ解決しなければならない問題は山ほどあっても、明日への希望がわいてくる。
中学生以上向き。
大人が読んでも、読みごたえのある青春ストーリーの傑作です。